ただ、忘れることも出来なくて。
*
好きなひとがいる。それが叶った時、こんなに嬉しかったのは初めてで、幸せで、何だか、叫びたい気持ちになって。
「大切にするから」
そう言われた時は、本当に嬉しかった。泣きたかった。多分、ちょっと泣いた。
幸せって続かないものだとつくづく思う。
「結婚するんだ」
幸せに埋もれていたわたしに、たくが言う。
「え?」
頭が、真っ白になった。
わたしと、って言ってる? まるで、決定事項を言うみたいに。
でもわたしは中学生で、結婚できる歳ではなくて。あなたは。あなたはそれをわかってるんだよね。
何か、おかしい。
「だから、別れて欲しくて」
「……なんで」
黙ってたの。
「何、年?」
「何が?」
「付き、合ってたの」
誰と、とは言えない。
「5年」
わたしと付き合う前からあなたは、結婚を見据えたひとがいた。
たった、2ヶ月。
5年の重みにそれは勝てなくて、自棄になってたくと夜を過ごすことすらできないわたし。
「……ごめんね」
「何が?」
せいぜい、カッコつけて、突き離すことしかできなくて。
たくが、恋人としてわたしに甘えたことなんてなかったよって、最後に甘えて欲しいなんて、言えなかった。
それはわたしの願望でしかなくて、たくにとってわたしはただの、遊びでしかなかったのだ。
何もしなくたって、そんなの同じだよ、キスもなくたって。
さいてい。
最低なのに。
泣くことしかできない無力なわたしはたくを嫌いにもなれなかった。
幸せになって、も、言えなかった。
幸せにならないでと、思った。
「別れても、いいよ」
「えり?」
「わたしは、勝手にたくを好きでいる」
「……えり」
「たくが返さなくても、わたしは好きなひとに送るようにメールを送るし、たくを好きじゃなくなるまで普通の中高生として恋するから」
たくに。
たくと彼女を無理矢理別れさせるつもりはさらさらないし、婚約不履行は裁判も起こることになりえないし、多分、浮気がわかったくらいじゃ大喧嘩が起こる程度で済む気がする。
ただ、痛い目に遭えばいいと、一縷の望みをかける。
やっかいな浮気相手でごめんなさい、わたしは送るよ。本当に。
だってわたしにとってわたしは、たくの彼女だったんだから。
「片想いに、戻るだけだよ。それだけ……」
涙で、声が詰まる。
「えり」
またごめんねと、たくがつぶやいた。