ただ、忘れることも出来なくて。
*
差出人: ××××@××××.××.××
宛先: 河野 えり
本文:
河野さんの住所を知らなかったのでメールでの無礼を失礼致します。
この度、私の夫である拓(享年25)が永眠いたしました。生前は××××…………
田邊 ひかる
「あなた、だったんですね、拓が傷つけたひとは」
ひかるさんの泣き笑いが浮かぶ。駆けつけたお通夜で、冷たいたくを見た。
バイバイ、と呟く。また、メール送るから。
「問い詰めたんです、なぜあんなメールが届くのか。怒らないから、今すぐ別れてって。そしたら拓が、もう別れてるよって」
「はい、すみません」
「あなたは知ってたんですね、全部。拓の弱いところも醜いところも。わたしは、全然……そんなの知らなくて……ずっと、素敵な姿しか見せてくれなかったの」
「わたしは、素敵な姿しか見せてくれなくても、たくの一番になりたかったです」
「うん、ごめんなさい」
「メールを送るのは、普通に恋してただけって言えば許してくれますか」
「わかった」
「これからも送っていいですか」
「え? 携帯解約しますけど」
「いい、ですか」
「いい、ですよ」
「ありがとうございます」