会長代行、貴方の心を全部わたしにください
幼い頃から病弱で入退院を繰り返していた俺にとって、詩乃は側にいても煩わしく感じない唯一の存在だった。

詩乃が今、何を読んでいて何処まで読み進んだかまで把握するほど、詩乃とは時間を過ごしていた気がする。

俺は詩乃の読んだ本の後を追いかけるように、書庫の本を読み漁った。

恋愛小説、歴史小説、ミステリー小説、詩乃はジャンルを問わず、とにかく本を読んだ。

週に2冊、3冊のペースで読んでいた。

臥せった俺の傍らで俺の様子を気遣い、見守って世話を妬いてくれる詩乃が俺には、いつの間にか心地良い存在だった。

が、詩乃の優しさに依存し詩乃の存在が俺の中で
大きくなればなるほど、詩乃を縛りつけている気がした。

詩乃の幸せを考え、詩乃から離れなければと思ったのは高校受験をどうするか、考え始めた頃だ。

考えあぐねたすえに治療と療養を兼ねて渡米し、大学を卒業して帰国した俺は、出版社に入社し、1人暮らしを始めた。
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