会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「恐れいります。では、嶋津社長。書類のご確認をお願いします」

僅か半年前に、会長代行に着任したとは思えない威厳に、私まで身が引き締まる。

応接室にお茶を運んできた事務員は、嶋津社長の手元に万年筆と印鑑をそっと置き、ちらと会長代行を見つめた。

嶋津社長が書類を1ページずつ丁寧に確認する間、会長代行はずっと胸に手を当てていた。

書類に不備などあるはずがない。

会長代行が直々に目を通し、何度も誤字脱字の訂正を命じられ完成させた書類なのだから。

会長代行が出版社勤務をしていた頃の噂は、先輩たちから聞かされている。

入社時に総務部に配属され、幾ら書類を山積みされても、定時以内に完璧に作成していたこと。

余った時間に社内で作成された様々な書類の処理や決裁などの、システムを調べ、僅か半年でシステム改善を実行させたこと。
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