会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「ミステリーですか? 容易ではないですよね。西村先生のように、身の回りにあるモノを凶器にするアイデアは、浮かびませんし」

「そう言いながら、貴方は難なくやってのけるのよ。いつも」

「まあ、ボチボチやっていきますよ。沢山先生とのコラボも大詰めですから気を引き締めていかないと」

「沢山先生は毎回、貴方の出方を見て奮起しているそうよ。相田くんが『結城が頑張ってくれていて助かる』と言っているもの」

「沢山先生とのコラボは、できれば今作までにしたいですね」

「編集長もそのつもりだと思うけれど、沢山先生はガッカリするでしょうね」

会長代行はハッとし、黒田さんを数秒みつめたかと思うと「は~あ」と小さく長いため息をついた。

「俺はどんなに言われても、お断りしますよ」

「編集長には伝えておくわ」

「お願いします」

ポツリと言って微かに笑った会長代行の顔がわたしに向けられた笑顔ではないことが、淋しかった。
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