会長代行、貴方の心を全部わたしにください
元さんは険しい声で会長代行を黙らせ、会長代行の手首をアルコール綿で拭いた。


慣れた手つきで会長代行に、注射を打ち込み、額に冷却シートを貼り付けた。


「暫く、大人しく寝ていろ」


元さんは言うと、カーテンをサッと閉め、私を呼んだ。


作業机を前にし、私を椅子に座らせ、インスタントの珈琲を差し出すと、小声で話し出した。


「この後のスケジュールは確認している。少し時間があるようだから、休ませる間に話しておく」


「はい」


「詩乃さんが由樹を過剰に心配するのには、それなりの訳がある」


「はい、詩乃様から聞きました。会長代行は生まれつき心臓が……」


「実は会長の心筋梗塞より、由樹の心臓病のほうが深刻。ペースメーカー植え込んで、朝昼晩と寝る前、薬を服用して、何とか普通に動けている状態だけど」


元さんはフウとひと息つき、珈琲を一気に啜った。
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