会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「由樹を会長代行にと云う話を聞いた時、俺は反対したんだがな。会長が心筋梗塞抱えて、総代も高齢だし……」


カーテンの向こうを気にしつつ、カルテをパラパラ捲りながら話す。


「頼みの綱の常務専務……長男次男が坊ちゃん過ぎて他の重役の言いなりでな。由樹は正に切り札というか。総代と会長が由樹を次期会長に、とまで期待しているんだ」


元さんは再度、大きな溜め息をついた。


「だがな~。左心低形成症候群(HLHS)、聞き慣れない病名だろ」


「……はい」


「心臓の左心室と左心房が、ちゃんとした形をしてない疾患。由樹の場合は重症でさ。左心室と左心房が殆ど無い状態で生まれて、何度も手術していて、未だに根治手術が終わっていないんだ」


元さんはカルテを指ではじき、顔を上げる。


「普通なら簡単にできるようなことが、由樹にはハードワークでね」


「……そんな」
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