会長代行、貴方の心を全部わたしにください
「私、会長代行がそんなに……深刻な状態だとは思っていませんでした」


「そりゃあな。仕事を懸命に覚えようとしているあんたには気を遣わせたくないだろうな」


「私……どうすれば、何をすれば……」


気がつくと、私は手を膝の上で握りしめ、元さんに訊ねていた。


「そうだな」と元さんが腕組みをした時、カーテンが勢いよく開けられ、会長代行が私に向かって言った。


「君は俺のことを考える必要はない。仕事をしっかり覚えて、1流の秘書になるように」


掠れた疲れの残る細い声に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。


「詩乃さんがいなくて良かったな。詩乃さんが聞いたら、スッゴい剣幕だろうな」


元さんは言いながら、会長代行の顔を見て軽快に笑った。


「詩乃の気遣いは有り難いけれど、詩乃が秘書になったら、仕事にならない」


「確かに」
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