会長代行、貴方の心を全部わたしにください
詩乃の心配と好意を無碍にできず、姉に甘えている俺。


俺は詩乃にキッパリ言い切れないでいる。


女々しいなと自分自身、思う。


作業を進めながら、思い浮かぶのは詩乃の笑顔と詩乃の明るい声だ。


自分自身の不甲斐なさに、ため息が漏れる。


最終確認のため味見をし火を止め、自分自身の分だけさらに盛る。

お品書きをメモして、詩乃の席に置き、時計を観る。


いつもなら、まだ社にいる時間だなと思うと、出版社に勤めていたころが、妙に懐かしかった。


残業をしている先輩や後輩、上司を尻目に定時で帰ることが、俺にとっては当たり前になっていた。


黒田さんがコンツェルンに訪ねてくるたび、西村先生や梅川先生、社の様子などを話していく。


原稿をわざわざ取りに来てもらうことが、気の毒だと言うと、黒田さんは「結城先生」と、はにかみながら俺を見て笑った。
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