会長代行、貴方の心を全部わたしにください
彼女は会長代行の秘書だという誇りと自信、そういったモノを自覚してはいないだろう。

「どうかなさいました?」

芹沢に問われ、フッと視線を机上に戻す。

「いや、何でもない」

「お茶、淹れましょうか?」

「ああ、頼む」

芹沢が室の隅の給湯器に向かうヒールの音が、静かに響いた。

芹沢の淹れた紅茶を一口飲み、喉を潤し、午後からのスケジュールを確認した。

進行中の海洋ホテル建設、オーナーを交えての打合せ会議、その後オーナーと関連商業施設の視察……etc。

スケジュールは午後8時までビッシリ詰まっていた。

出版社勤務の時、自分が如何に自由気ままに働いていたことかと思う。

自分主導で計画を立てて良かった頃とは訳が違う。

接する相手が多すぎるし、扱う案件の量が違いすぎる。

様々な分野の様々な知識を処理しなければならない。
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