会長代行、貴方の心を全部わたしにください
常務は書類に添えられたA4サイズのメモを見るなり、眉間に皺を寄せた。

「あの野郎! 生意気に口出ししやがって。黙って決裁印押して戻せばいいものを」

昨今、インフラの老朽化により整備工事が必要な公共施設が後を絶たない。

施工から50年以上になるものもざらにある。

わたしでも、それくらいは知っている。

そうした施設に加え、築年数の古い高層ビルなどの点検修理や立て替えに関する書類が、毎日ひっきりなしだ。

本社の土木建築部から決裁はまだかと、度々急かされ、うんざりしている。

会長代行の言葉を借りるなら「優先順位も考えずに片っ端から点検修理を行っていては、経営破綻してしまう」ーーと、言ってやりたかった。

それにしても、会長代行が建築知識にも明るいことに、驚いていた。

要所要所を細かく押さえたメモは、いきり立っていた常務を数分で黙らせてしまっていた。
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