会長代行、貴方の心を全部わたしにください
常務がメモから目を離し、チッと舌打ちしたかと思うとポツリ呟いた。

「何でこんな細々した事までアイツは知ってやがる!?  つい半年前まで全く畑違いの場所で好き勝手していたくせに」

ハッとした。

そうだ、会長代行は出版社で仕事をしていたんだったということを、常務の呟きを聞くまで忘れていた。

会長代行の仕事ぶりがあまりにも鮮やかで、何年も前から会長代行をしているように感じていた。

結城コンツェルンは様々な分野の業種を行い、下請け会社を幾つも抱えた大企業だ。

日々、会長代行の元に届けられる書類の内容は多岐に渡っている。

それらに対し、会長代行が考えあぐねる様子は見た覚えがない。

1度でも担当者を呼びつけ、説明を求めたことさえなかった。

会長でさえ担当部署にしばしば説明を求め、部長だの課長が会長室を訪れていた。
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