会長代行、貴方の心を全部わたしにください
会長直々の呼び出しに泡をくい、改まって書類の捕捉をし、何とか決裁をもらおうと必死な様子が滑稽にさえ感じた。

会長代行の秘書になって以来、そんな滑稽な様子を1度も見ていないことに、今さらながら気づいた。

「検討して再度提出すると伝えたまえ」

「はい、承知いたしました」

わたしが頭を下げ、ドアノブに手をかけた時、常務が「クソッ」とこぼし、書類を机に叩きつけた。

会長代行と常務、専務は兄弟で仲が悪いとは噂に聞いていたが、これほどあからさまな態度をとるほどとは正直、驚いた。

「失礼します」

常務室を出て胸の鼓動が強く速く鳴り、手足がガクガク震えた。

あんな恐い上司の側で働いていなくて良かったと思った。

会長室に戻ると、会長代行が電話の受話器を上げダイヤルしようとしているところだった。

わたしが戻ったのを確認すると「遅かったな。今、常務に電話しようとしていた」と言いながら、受話器を置いた。
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