幸田、内緒だからな!
 三浦さんみたいに色気のある女性なら、直紀が鼻の下を伸ばしても不思議じゃないのに。

「あ、そういえばあなた夕べ、幸田さんの車に乗って帰ったんですって?」
「え?」
「社内で噂になってたわよ。あなたが幸田さんと付き合ってるんじゃないかって」
「わたしが、幸田さんと?!」

 わわわっ。
 何ていう事だろう。
 よりにもよって、わたしがお父さんと???

「そんな事あるわけないじゃないですか。誰ですか、そんな噂流したのは」
「うん? わたしはさっき更衣室で阿部ちゃん(総務部の人)から聞いたんだけど、彼女も誰か別の人から聞いたみたいだったわよ」
「って事は、その噂、もっと広まってるって事ですね」
「そうね。女子は噂を広めるのが得意だから」

 どうしよう。
 むきになったらなおさら疑われそうだし、かと言って黙っていたら認めたと思われそうだし。

「で、本当のところはどうなの?」
「嘘に決まってるじゃないですか!」

 あきれたように吐き捨てた。
 話になりません。
 誰が60近い男と付き合うのよ。
 そりゃ、中にはいるわよ。
 年の差カップル。
 だから、付き合ってる人を見ても、どうしてあんな親父と? とかは思わない。
 人それぞれだもん。
 だけど、わたしはお断り。
 恋愛の対象としては見られない。

「そうよね。わたしは年下が好みだから、あんなに年上の人を好きになる人の気持ちはわかんない」
「三浦さん、年下がいいんですか?」
「そうよ。だってほら、若い方が肌もピチピチだし、可愛いし」
「へぇ」
「何? そのへぇーって言い方は。わたしが年下好みって似合わない?」
「いえいえそんな事はありません」
「そう。で、幸田さんと付き合ってないんだったら、誰と付き合ってるの? いるんでしょ、恋人」
「え! ええ、まあ」
「何歳? わたしと同じく年下?」
「いえ、ちょっとだけ年上です」
「それじゃ30歳くらい?」
「ええまあ、そんなところです」

 35歳とは言えなかった。
 どこでどう、社長にたどり着くとも限らない。
 これ以上あれこれ聞かれる前にと、わたしはその場から退散した。
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