幸田、内緒だからな!
社長、復活しました!
 目が覚めると、何となく胃の辺りが気持ち悪い気がしたけど、パンを食べてオレンジジュースを飲み干すとすっかり治ってしまった。
 きっとお腹が減ってたんだ。
 昨日は早退するほど落ち込んでいたのにね。

「それじゃお母さん、行って来るね」
「いってらっしゃい」

 母より先に家を出る。
 母は職場まで自転車で15分。
 わたしは電車で40分。
 
 朝の電車はいつも満員で座れた試しがない。
 それでももっと遠くから立ったまま乗って来ている人もいるので、40分なんて近いほうだ。
 会社が、駅から歩いて5分という立地も有難い。
 今更ながら、働きやすい職場に就職できた事に感謝する。

 夕べ心配して電話して来てくれた直紀に、今日は行きますって言っておいた。
 昨日迷惑を掛けたお詫びに、三浦さんには駅の売店でお菓子を買った。

「おはようございます」
「あらおはよう。もういいの?」
「三浦さん、昨日はご迷惑をお掛けしました」
「いいのよ。それより社長が出掛けた後、お茶を引こうとテーブルの上を見たら、式場のパンフレットが置いてあるじゃない。あれ、朝来てた中川呉服店のお嬢さんが持ってきたやつでしょ? 社長と結婚するのかって思っちゃったわよ」

 やっぱり三浦さんもそう思ったんだ。
 誰が見ても、あんなに楽しそうにパンフレットに目を落としていたら勘違いするよね。

「だから、社長が戻って来て聞いちゃったわ。あの方と結婚されるんですか? ってね」
「まぁ」

 三浦さん、ズバリ聞いちゃったんですね。
 わたしはあの場面見ちゃったら聞けませんでしたよ。

「そしたらね、社長の大学時代のご友人が結婚されるとかで、花嫁さんにプレゼントするお着物が欲しくて、いい呉服屋さんはないかと相談を受けたんですって」
「そうだったんですか。でも、それじゃ何故結婚式場を?」
「それがね、中川さんの娘さん、つまり昨日来られてた佐登子さんがね、結婚式場の紹介もされてるんですって。もし決まっていないようだったら式場も紹介しますよってPRに来られてたわけ」
「へぇ」
「ちゃっかりしてるわよね。着物も売って、式場まで紹介するなんて」
「そうですね」
「でもまあ、中川呉服店の社長さんとうちの会長が親しくお付き合いされているから、社員の中でもあそこで着物を買う人が多いのよ。物によっては半額ぐらいにしてもらえるそうよ」
「そんなに安くですか?」
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