幸田、内緒だからな!
「あ~でも安いって言っても、100万が50万とか? わたし達には手が出せないかな」
「そうですね」

 高級呉服店か。
 着物にはあまり興味はないけど、そう言えば直紀のお母様ってよく和服を着てらした。中川さんのところで仕立ててもらったんだね、きっと。


「早瀬さん、大丈夫?」

 直紀が入って来た。
 もう大丈夫。
 動揺もしていない。

「社長、おはようございます。はい、この通りすっかり回復しました!」
「昨日はびっくりしたよ。あまりにも突然だったから」
「ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。あ、忘れてた。三浦さん、はいこれ」

 わたしは紙袋の中からお菓子を出した。

「わたしに?」
「はい。ご迷惑を掛けたお詫びです」
「ありがとう。お茶の時間に頂くわ」
「あれっ? 俺には何もないの?」
「社長、甘いのお嫌いじゃないですか」
「和菓子なら大丈夫だよ」
「そうでしたね。それでは今度、大福でも買って参ります」
「宜しく。それじゃ今日のスケジュールを確認したいから社長室に来て」
「はい。準備してすぐ参ります」

 直紀が消えた社長室のドアを、その後少ししてノックした。

「失礼します」

 中に入ると、席に座っていた直紀が立ち上がり、わたしを抱きしめた。

「心配したんだぞ」
「ごめんね」

 今ここに誰か入って来たらアウトだね。
 昨日一度も触れなかった彼の胸に抱かれると、やっぱり安心してしまう。

「このまま奥のベッドに連れて行きたいところだけど」
「ダメですよ」
「わかってるよ。そのくらい、お前が恋しいって事さ」
「直紀……」
「今晩、早めに帰るから、マンションで待ってて」
「わかった」
「それじゃ……よし、仕事の準備を始めよう」

 名残惜しそうにわたしから離れた直紀は、仕事モードの顔に戻った。

「社長、今日は午後から取締役会議です」
「何時だっけ?」
「14時です」

 
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