幸田、内緒だからな!
 お茶を出した後は、わたしはその場にいる必要はない。
 秘書課に戻って、デスクワークをして会議が終わるのを待つ。

 それから2時間後。
 社長が戻って来た。
 それと入れ替わるようにわたしはお茶を片付けに会議室に向かった。

「早瀬さん、わたしも手伝うわ」
「助かります」

 救いの手を差し伸べてくれたのは三浦さんだった。

「お菓子、ありがとね。ランチの後で頂いたわ」
「いえ、こちらこそ助かりました。そして今も手伝ってもらってすみません」
「いいのよ。今日はもう専務、何にも予定が入っていないから」
「そうですか」
「秘書課の中で、早瀬さんが一番忙しいんじゃないの? 社長多忙だから」
「そうですね。でも、その方がやりがいがあって楽しいです」
「秘書の鏡みたいな人ね、あなたって」
「そんな事はないですよ」

 謙遜しながらも、我ながらよく働いていると思っていた。
 もちろんお給料もたくさんもらっているんだけど、追加料金が欲しいくらい忙しい時もある。
 まあ、そんな時は直紀が食事に連れて行ってくれたり、ねぎらってくれるんだけどね。

 会議室が片付くと、今度はコーヒーを持って社長室を訪ねた。

「失礼します。社長、コーヒーをお持ちしました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」

 あれっ?
 何だか厳しい顔。
 会議で何か難しい問題でもあったのかな?

「どうかしましたか?」
「いやっ、ちょっとこれから会長が来る事になった」
「会長が?」
「ああ」

 何だろう。
 眉間に皺を寄せるとは、いい話ではなさそう。

 それから30分後、会長がお見えになった。
 緊張する。
 直紀が社長になる前、ここで今の直紀と同じ仕事をしていたのは会長だった。
 それでも、わたしが入社した時にはすでに社長は直紀だった。
 会長が働いておられる姿を見たわけではないけれど、これだけ大きな会社になったのは、やはり会長がやり手だったからだと思う。
 それを引き継いだ直紀は、たぶん最初はプレッシャーも大きかったんじゃないかな?
 今では、業績も伸ばしながら、頑張っているけど。

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