幸田、内緒だからな!
 思わす吐息が漏れる。
 運転席には幸田さんがいるというのに、社長はお構いなしでわたしの胸をもみ始めた。

 実はわたし、半年前から社長と付き合ってる。
 社員の前では社長に、早瀬さん。
 こうして2人の時は名前で呼び合う仲。
 ファントムを購入した頃はまだ付き合い出して1ヶ月だったので、2人の時も社長って呼ぶ事が多かったんだけど、今は社員の前でも危うく直紀って呼びそうになって慌てる事がある。
 直紀から、俺達が付き合ってる事は内緒にしておこうと言われ、わたしとしてもそっちの方がやりやすいと思ったから承知した。
 だけど、こうして幸田さんの後ろでいちゃついてたらバレバレでしょ!
 いいのかなぁ、もしも幸田さんが誰かに言っても。

 やがて彼の指が、わたしの大切な部分をなぞり出し、体がピクンと反応する。

「直紀、ダメだって」
「ダメ? もうしっとりしてるみたいだけど?」
「だからそれ以上は止めて。わたし……」
「何? これ以上したら歯止めがきかなくなりそうって?」

 直紀のいじわる。
 
「ざーんねん」

 そう言って、彼はわたしから離れた。
 呼吸が荒い。
 早く整えなくては。

 わたしは乱れたブラウスを整え、バッグから化粧ポーチを取り出すとはみ出したリップを拭き取った。
 今みたいに、隙あらばキスをしてくる彼の為に、控えめのリップを塗るようにはしていたけど、激しさを増すと、やはり一度ふき取って塗り直さなければいけなくなる。
 
 それからしばらくして、彼の指がわたしの指と交差するように絡みつく。
 指を曲げ、ぎゅっと握り合う。
 今はこれだけで我慢してね。
 本当は今すぐにでも抱かれたい。
 だけど、さすがにここじゃダメ。
 かりにも今は仕事中。
 ONとOFFははっきりさせないと。

 直紀の彼女になる前、彼の印象は頭が切れて行動力があってクールな人だと思っていた。
 今年35歳になった彼。
 それでも、年よりもずっと若く見える。
 学生時代に水泳をやっていたという体は、今でも上半身に筋肉が付いていて肩幅が広い。
 腰の辺りは締まっていて、無駄な贅肉はどこにも付いていなかった。
 顔も整っていてモデル級。
 会社のCMにも社長自ら登場している。
 その効果なのか、ホテルも介護施設も大好評なのだ。
 ホームページへの書き込みも、社長を絶賛するものばかり。
 密かにファンクラブも出来ていたりする。
 社長と結婚したいと書き込む女性もたくさんいるけど、それを読みながらごめんね、社長にはわたしという彼女がいるから……と思っている。

 
 
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