幸田、内緒だからな!
「失礼致します。お茶をお持ち致しました」

 お茶を運び、わたしは部屋を出た。
 出る前にちらっと直紀の顔を見たけれど、不機嫌が顔に張り付いたような感じだった。

 30分経った。
 中からの声は聞こえない。
 感情的にはなってはいないようだ。

「早瀬さん、ちょっと入ってくれ。それから秘書課の他の子達、悪いんだが呼ぶまで席を外して欲しい」

 みんなはえっ? というような表情をしたものの、黙って部屋を出て行った。

「それじゃ知花」
「はい」

 社長室に入る。
 会長と目が合った。
 何?
 何で呼ばれたんだろう。

「お茶のお代わりでもお持ちしましょうか?」

 何だかその場に長居するのはいけない気がして、一旦湯のみを下げようとお盆を持ち上げた。

「ここに座って」
「えっ?」

 直紀が、自分の隣を指差している。
 えっ? 
 どういう事?

 テーブルの向かい側には、会長が座わり、じっとわたしを見ている。

「失礼致します」

 わけがわからないまま、とにかくその場は彼の言う通りにした方がいいと判断し、ゆっくりと腰をおろした。

「会長。縁談の話は断って下さい」
「お前の好きな子というのは、その子か?」
「そうです」

 え!
 わたしの事を話してたの?

「あたらめて紹介します。早瀬知花さん。僕の秘書です」
「お前は、秘書に手を出したのか」

 あきれたといった表情をする会長。
 それと同時に、冷ややかな視線を投げかけてくる。

「早瀬さん」
「はい」
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