幸田、内緒だからな!
 すっと緊張が消えていく。
 素敵なお母様。
 直紀と結婚して、お母様ともっともっと仲良くなりたい。

「あらいけない。ゼリー冷たいうちに食べて食べて」
「頂きます。……わっ、爽やかで美味しいです」

 この頃柑橘系のものが欲しくなる。
 昔からよく食べてはいたけど、特に最近は美味しく思える。

 食べ終わったわたしは、洗い物だけはさせて下さいと申し出て、食器を洗った。
 その後、夕食のお米をセットして、野菜の皮むきを手伝った。

 夜8時頃、会長が戻って来られた。
 それまでの穏やかな空気が、一気に張り詰めたように感じられた。

「お帰りなさい、あなた」
「うん」
「会長、お帰りなさいませ」

 お母さんに合わせて、立ったまま出迎えてしまったけど、本当は手をついてお迎えしないといけなかったのかな。
 何だか、わからない事ばかり。
 秘書の勉強をして、ある程度の礼儀は身につけたつもりだったけど、会長を目の前にすると、そんな事が一気に飛んでしまった。

「あなた、夕飯は?」
「食べる」
「飲んでいらしたんでしょ?」
「飲んで来ても、いつも母さんの料理は食べているじゃないか」
「そうでしたわね。すぐに用意しますね」
「あ、お母さん、わたしが」
「そう? それじゃあなた、お着替え手伝いますわ」

 そう言って、2人は違う部屋に消えて行った。
 えっと、えっと、何すればいいんだっけ?

 先に食べてしまったわたし達。
 それと同じように準備すればいいのよね?

 2人が戻る前にと、急いで料理を温め直した。
 今日の夕食は、ぶり大根にほうれん草の白和え、生野菜のサラダにお味噌汁。
 それからお母さんが漬けた白菜の漬物。

 うちでは母が仕事で疲れて帰って来てから作るので、すぐに出来る揚げ物や場合によってはお惣菜という日もあった。
 2人だから本当に何でも良かった。
 だけど、直紀のお母さんは、きちんと手間を掛けて作ってる。
 愛情のこもったこの食事で、直紀も育って来たんだね。
< 24 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop