幸田、内緒だからな!
「実はね、お母さんが嫌な思いをするかもしれないと思って黙ってたんだけど、お父さん、社長の運転手をしているの」
「社長のって、それじゃ、知花と同じ会社にいるって事?」
「そう」
「いつから? いつから一緒だったの?」

 わたしはお父さんが面接を受けて入社して来た事を話した。
 それから今までの事も。
 しばらく黙って何も言わなかったお母さんが、やっと口を開いた。

「知花は、お父さんに出て欲しいのよね? 向こうのお父さんとお母さんもご存知なのよね?」
「うん」
「わかったわ。あなたが望むのなら、お母さんはそれでいい」
「ありがとう」


 結婚式当日。
 朝から快晴だった。
 
 直紀と一緒に式場へ行き、それぞれの部屋で衣装に着替える。
 直紀はすぐに着替えられただろうけど、わたしの方は結構大変だった。
 お腹の赤ちゃんの事も考慮し、負担にならないようになるべくお腹周りにゆとりのあるドレスにした。

「それではそろそろお時間です」

 そう言われ、お母さん達と3人で部屋を出る。

「直紀さん、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。ふふっ、でもあの子がどんな顔をするのか見物だわ」

 いたずらっぽく笑う直紀のお母さん。
 ふたりは対照的だった。


 チャペルに入る。
 向こうで直紀が待っている。
 わたしは父と腕組みをし、バージンロードを進む。
 
 一歩一歩、転ばないように注意しながら進んで行く。
 両側に座っている親戚の人達の拍手に包まれながら。

 あと少し。
 もう少しで直紀のところに着く。

 そして、直紀が振り返った。

「えっ! 幸田?!」

 大きな声が静かなチャペルに響いた。

「どうしてあなたがここに?」
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