【完】無気力な幼馴染みがどうやら本気を出したみたいです。



「鬼龍院くん……ありがとう」

「……俺からも、その、ありがとう」

「お礼なんていい。だって僕は君たちに大切なことを教わったからね。これはそのお返しだと思ってくれ」

「大切なこと?」


私が聞くと、鬼龍院くんはやわらかな笑顔で答えてくれた。


「僕は最近、一番よりももっと大切なものを見つけたんだ」

「もっと大切なもの? 鬼龍院くん、それって……」

「最初は近衛クンの一番になりたいと思っていたんだが、今はそんなことよりも、近衛クンの幸せだけを願っているんだ」


ザワザワと生徒の声がする中で、鬼龍院くんの声はひときわ透き通って聞こえた。


「一色クン、僕と友達になってくれてありがとう。近衛クン、僕に大切なことを教えてくれてありがとう。君たちと過ごす日々は、あまりにも楽しすぎるんだ」


一番という数字が全てだった。

一番という数字にだけすがりついていた。


そんな彼の面影は、もうどこにもなかった。





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