真夏の青空、さかさまにして

彼女はいったい何を言っているんだろうか。いちいち言葉に突っかかって聞き取りにくいし、なんとか聞き取った話の内容はまったく理解不能だっていうんだからどうしようもない。

何よりまず、どうして僕の名前を知っているのか。


きっと今、もともと不機嫌だったこともあって、僕の顔には思ったことがそのまんま表れているだろう。なんだこいつ、と。

初対面の人に対してすごく不躾な態度だなと内心思いながらも、彼女があまりにも怪しいから仕方ない気もする。


そんな僕に何も感じないのか、彼女は「あっそうだよね、ごめんなさい。説明不足で」と照れたように頭をかいてから、ぺこりと直角にお辞儀をした。



「わたし、山下真夏っていいます。それでお父さん……えっと、山下忠の娘で今日から吉弘くんと一緒に住むものです」

「は?」



思わず声が漏れた。この人が言うことは本当に意味がわからない。



「一緒に住む? 誰と誰が?」

「え、あなたとわたしが」

「は?」

「あっ、もちろんとお父さんやお母さんもいるよ?二人じゃないよ?」

「それはわかってるけど」



娘がいるなんて聞かされていない。それも高校生の。

目の前の彼女はへらへらと天然だかボケだかをかましているけれど、彼女の父である忠さんや俺の父さんはなんとも思わなかったのだろうか。高校生なんて、思春期まっさかりの男女を同じ屋根の下に住まわせることに。


おっさん二人の意図が読めなくてぐるぐると思考を巡らせていると、当の本人が能天気な笑顔で僕に問う。
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