真夏の青空、さかさまにして

それから、すぐそこだという真夏の家にゆるりゆるりと向かう途中、真夏はそれは楽しそうに僕に話しかけていた。


自分が青葉西の一年生だということ。朝食は絶対にごはんがよくて、ペットは犬より猫派だということ。そして、好きな季節は夏だということ。


僕が「へえ」「ふうん」と気のない相づちしかしないので、彼女の自己紹介はすごく一方的だった。会話なんてもちろん続きやしない。

それなのに腹を立てたり困ったりする様子もなく、どうでもいい話題をポンポンと投げかけ続ける。途中からは僕が会話を続ける気がないことをわかってか、ただ僕に聞かせるためだけのような話し方になっていた。



「私ね、毎年夏休みって楽しみなんだけど、今年はあずさが来るって聞いてたからいつも以上に楽しみだったんだー!」



もうすぐそこだと言っていたのになかなか辿り着かないのは、彼女が亀のようにのんびりと足を進めるから。くわえて、ろくに前も見ずに僕ばっかり見て危なっかしい歩き方だ。



「嬉しいな、あずさがうちに来てくれて」



無垢な笑顔で僕を見上げる彼女はやっぱり嘘なんてつけないまっすぐな瞳をしていて、純粋にそう思っているんだろう。こんなにも態度が悪い僕に対して。


僕は今日から一緒に暮らすらしい彼女ーー山下真夏のことをほんの少し理解したような気がした。

僕はきっと、彼女を好きにはなれない。
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