真夏の青空、さかさまにして



自分の家だという〝そこ〟に颯爽と入っていく真夏の姿に、僕は付いていくこともできずただただ言葉を失っていた。



「どうしたのあずさ、入らないの?」



敷地内に入る一歩手前で歩みを止めた僕。それに時間差で気がついたらしい真夏が、不思議そうに僕を振り返った。


今、僕はものすごく驚いている。しかし表情筋を動かすことも、自分の気持ちを表現することも普段から散々怠ってきた僕は、この驚きをどう伝えればいいのよくかわからない。

とりあえず確認の意味合いも込めて、僕は素朴な疑問をぶつけた。



「君の家って……これ?」



真夏がわかりやすく顔をしかめる。



「え、うん。当たり前でしょ?違ったら私、不法侵入だよ?警察行き」

「ああそうだね、でもそういうこと言ってるんじゃないんだけど」

「じゃあなに、どういう意味?」

「いや、わからないならいい……」



信じられない思いで見つめる先には、ここは寺かと突っ込みたくなるような仰々しい門。その奥には同じくらいの大きさの日本家屋が二軒並んでいて、一軒は普通の二階建て、もう一軒は平屋で家というのとはまた違うようだった。

それらをぐるっと囲むのは、見覚えのある木造の立派な塀。何を隠そう、僕がさっきまで日避けに使っていたあの塀である。


つまり真夏が当たり前のように我が家だと言い放ったのは、僕がこの屋敷が山下家だったらいいのになーんて冗談めかしていたまさにその屋敷だ。
< 13 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop