真夏の青空、さかさまにして
門には山下と達筆な文字で書かれた表札がかかっていて、本当にここが僕の探していた山下家だと証明している。
「西園寺でも道明寺でもなく、山下……」
「え、なに?さいおんじ?」
「こっちの話だから気にしないで」
しかし何よりも驚いたのはこのもう一つの表札……いや、看板というべきか。
「……やられたな」
門に立てかけられた木製の古い看板。そこに書かれた堂々たる文字に頭を押さえる。なるほどね、確かに大きい表札だ。
居候の話を聞かされた時からなんとなく違和感を感じていたが、どうやらそれは正しかったらしい。
ーー山下剣道場。
つまりここでは剣道を教えているってこと。父さんが何を思って僕を夏休みの間ここへやったのか、その魂胆は見え見えだ。
何を勝手に、とも思ったが、何度説得してもなびかない僕に焦りが出てきての行動だろう。思えば早いものでもうすぐ一年になる。そう考えると怒りよりも父と母への申し訳なさが勝って、反抗する気も失せた。
仕方がない。せめてもの罪滅ぼしだと思って、ここは両親の策略に付き合うことにしよう。
「もう、何うだうだしてるの! ほら行くよっ」
「ああ、ごめん」
痺れを切らしたらしい真夏が引き返してきて、ぐいっと僕の手を引く。棒切れみたいな腕は見た目通りの非力で引っ張られるほどの力でもなかったが、僕はなぜか振り払うこともなくそれに大人しくついて行った。