真夏の青空、さかさまにして
一歩中に入れば砂利敷きの庭が広がっていて、左手には二階建ての家、門から入ってすぐには平屋がドンと大きく構えている。十中八九、この平屋が剣道場だろう。
近づいてみるとそれは思っていたよりも随分古そうな建物だった。一面に張り巡らされた窓ガラスは全て障子で締め切っていて中は見えないが、外壁の木が濃く変色している。
「すごいね、これ剣道場でしょ」
「そうだよー。ちょっと古いけど立派でしょ?」
「うん、確かに古いけどむしろそれが趣があるっていうか、練習に来るのが楽しみになりそうだ。中も綺麗にされてるんだろうな」
「そうなのそうなのー!わかる?」
ぱあっと真夏の表情が明るくなったのを見て、真夏も剣道をしているんだろうなと思った。剣道場の娘だし、当然と言えば当然か。
なんとなく話題にしてしまったけれど、触れないほうがよかったかもしれない。
「しかもね、見てこの木!桜の木なんだけどね、春には満開になってすっごく綺麗なんだよ」
剣道場のすぐ側に青々とした大きな木が何本も並んでいて、そこから木漏れ日がきらきらと落ちている。
「へえ、木陰にもなるしいいね」
「そうなの! この桜の木のおかげで夏でも結構涼しいんだよねえ〜」
「ああ、それすごくいい。夏場の剣道場ってどこも蒸し風呂状態だから」
羨ましい、とこぼすと真夏が急に押し黙った。一瞬何かに迷ってから、決心したようにして、だけどすぐに不安げな顔をする。そして最後は、僕の顔色を伺うようにおずおずと口を開いた。