真夏の青空、さかさまにして

「中、入ってみる?」



ああ、しまった。どうやら彼女は僕の事情を知っているらしい。

言われてみればそうか。父が説明していないわけがないし、そもそも剣道をしているのなら言われずとも元から知っていたかもしれない。



「別にいい」



掴まれていた手を振りほどく。



「それより、早く挨拶を済ませたいんだけど」

「あっそうだよね、ごめん」



僕が引き留めたことを忘れてるんだうか。急に態度を変えて自分勝手な僕を怒ったっていいのに、真夏は気を遣ってへこへこ謝る。馬鹿らしい。



「向こうが家ね、今日からあずさも住むところ!」



剣道場を通り過ぎて、二階建ての家を指差しながら言う。気まずそうにしたかと思えばすぐに軽やかな口調だ。

ご機嫌取りかと内心嘲笑したが、真夏は「あずさの部屋は二階だよ〜」なんて言ってにこにこと笑っていて、そんな様子でもなかった。

わかりやすくて単純そうな人間だと思うのに、時々読めなくて困る。それともただ単に、僕とは全く違う人種だからそういう風に感じてしまうだけなのだろうか。




「ただいまァ〜」

「……お邪魔します」


カラカラと音をさせながら引き戸が開くと、ひんやりとした空気が僕らを迎える。返事はない。



「あれ、おとーさーん?」

「いないみたいだね」

「えー!剣道場にはいなさそうだったし、スーパーかなあ……。せっかくあずさが来てるのになーもう」
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