真夏の青空、さかさまにして

「じゃあ私、制服着替えてからそっちに行くから。それまでは部屋でゆっくりしててね」



そう言われて数分後、ゆっくりする間も無く、無地の白いTシャツに短パン姿の真夏が僕の返事も待たずに部屋に入ってきた。それではノックの意味がないだろうと思いきり顔をしかめたが、真夏は気にしていないみたいだった。



「虫捕り少年みたいな格好だね」

「どうしてそんな物腰柔らかに毒を吐くの……」



真夏のことだから褒め言葉として取ったりしたらどうしようかと思ったんだけど、そこまでではなかったみたいだ。よかった。


それから忠さんが帰ってくるまでは一階の案内をしてもらった。

一階は二階よりも随分と広くて、台所やお風呂、応接間など、ほとんどが一階にあった。逆に、二階にあるのは真夏の部屋と僕が借りる部屋だけらしく、普段は真夏以外の人が二階に上がってくることは滅多にないんだとか。


そして全部見て回ったかなというところで、タイミング良く忠さんが帰ってきた。僕のために茶菓子を買いに行ってくれていたらしい。

忠さんはがっちりとした男らしい体型で、顔立ちも彫りの深い濃い顔だった。正直、真夏の父親だからもっと細っこいのを想像していたんだけど全然違った。本当に同じ血が流れているのかと問いたくなるほど、真夏とは似ても似つかない。



「いらっしゃい、あずさくん。もう知っているだろうけど、うちは剣道場を開いているんだ。気が向いたらいつでも来てくれ、君なら僕も生徒も大歓迎だ」



開口一番にそう言われて苦笑した。
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