真夏の青空、さかさまにして
心を落ち着かせるように、すう、と息を吐く。だけど緊張がほぐれる気配はなかった。
「僕はもう、剣道をしません」
見据えると、忠さんは「そうか……」と眉尻を下げて笑った。
よかった、無理強いをするつもりはないらしい。もし忠さんが父に無理にでも剣道をさせるようにと言われていたら、僕は今すぐにでもこの家を出て、数少ない友人の家を夏休みの間渡り歩くところだった。
ほっとすると、忠さんの視線が横に移る。
「ということだ、真夏。諦めなさい」
「え?」
見ると、ハの字になった眉の下で瞳を潤ませて、真夏が明らかに残念そうな顔をしていた。
「お父さん……もっと頑張ってよ……」
「頑張るも何も、本人がやらんと言っているのに無理やりさせてどうするんだ。嫌々したって何の意味もないだろう」
「そうだけど、でも、やっと会えたのにぃ……」
「会えただけよかったと思いなさい」
ピシャリと厳しい目で言われて、真夏は小さく縮こまる。顔はむくれたままで納得はしていないらしいが、逆らえやしないらしい。
「あの、もしかして」
まさかと思いながら口を開くと、忠さんは僕が尋ねたいことをすばやく察したようで、「ああ」と白い歯を見せて笑った。
「真夏が、君に憧れて剣道を始めたうちの生徒だ」
雷に撃たれたような衝撃が落ちてきて、一瞬頭が真っ白になる。真夏が?……僕に憧れて?もう一度確認するように隣を見れば、ぱちりと目が合って「あ、どうも」とよくわからないお辞儀をされる。