真夏の青空、さかさまにして
「わたしだって、真夏に剣道をさせてみせるって言ったよね!」
任せてと言わんばかりの輝く瞳にイラッとする。
「だからしないっつってんだろ」
「ひえーん、あずさの言葉遣いが悪いよう」
「気持ち悪い泣き真似すんな」
「女の子に向かってひどい!」
こういう時だけ自分が女子であることを自覚するらしい。真夏はふざけているつもりなんだろうけど、僕はこの茶番に付き合うつもりもない。
「なんでそうしつこいわけ?……もう放っておいてくれない?」
忠さんも言っていたけど、他人に言われて無理やりやるもんじゃないんだ。剣道に限らず、どんなスポーツでもどんなことでも。
だから、僕に憧れているとは言え、昨日会ったばかりの他人がここまで口出ししてくるのはさすがに鬱陶しいし腹が立つ。何も知らないくせに自分勝手に押し付けてくるなと怒鳴りたくもなる。
「確かにしつこいね、ごめん」
真剣に苛立っていることを察したのか、真夏が静かに謝った。だけど先ほどのように怯えている様子もなく、まっすぐにこちらを見据えていて、なぜか僕のほうが目を逸らしそうになった。
「でも、わたしだって、あずさが『したくない』って答えてたらこんなにしつこく迫らなかったよ」
「……は?」
「あずさ覚えてない?昨日わたしが剣道はもうしたくないかって聞いたら、あずさは『しない』って答えたの。わたしは『したくない?』って聞いたのに」
疑うような眼差しにじわり、じわり、 と胸に黒いなにかが広がっていく。何だよ、何が言いたいんだ。
「あずさ、本当はまだ剣道がしたいんじゃないの?」