真夏の青空、さかさまにして
「なんで入ってきてんの、怒られるよ」
「大丈夫。透ちゃんの試合が終わったから、お父さんの指導者用のワッペン借りて入っての。だから大丈夫。それに実際、指導者でもあるし嘘じゃないから、うん大丈夫」
「ふは、よく言う」
嘘じゃない嘘じゃない と保険をかけつつも明らかにビクビクしていて笑ってしまう。たぶんみんなしていることだろうし、バレもしないだろうけど、残念ながら彼女はどんな小さな嘘もつけないバカ正直な人間だ。
「わざわざ泣きそうになりながら入ってこなくても、僕は大丈夫だよ」
クク、と笑いながら言うと、彼女は「嘘つき」と言って、僕をまっすぐに見据えた。
「全然、大丈夫じゃないでしょ」
きゅっ、と彼女のぬくもりが僕の冷えた手を包み込む。そこで初めて、自分の手が震えていたことに気がついた。
さっきまで怯えていた彼女はいったいどこに行ったんだろう。まいったな、と顔を俯けたけれど、防具(ぼうぐ)が邪魔で彼女の顔はしっかりと見えたままだった。
「強がりで意地っ張り。二年経ったって全然変わらないなあ」
おまじないでもかけるみたいに、彼女が僕の手を優しくさすると、逃げた体温がじわりじわりと戻ってきて震えは少しずつおさまった。それを確認すると、彼女はいたずらっ子みたいに笑う。