真夏の青空、さかさまにして

基本的に元立ちは先生や上級者が務め、掛かり手は下級者である。真夏たちが今しているこの打ち込み稽古でも、三人の元立ちは腕の立つ上級者のようだった。

生徒ではなく先生だろうか。元立ちの三人は、列を三列つくって稽古の順番を待っているその他大勢の生徒たちとはあきらかに体格が違っていた。


十数人いる生徒はほとんどがひょろっと小さくて、みんな小学校高学年くらいだろう。真夏はそのうちの一人で、たぶんこの中の誰よりも歳上なはずなのに、中に混じっていてもまったく違和感がなかった。



「自分の番じゃなかったら、人の稽古は見てなくていいんだね」



違和感がない、というのはもちろん体格的な意味もあるけれど、それだけじゃなかった。

面金(メンの顔面部分にある金属の格子)の向こうで、真夏がハッとしたような顔をする。



「僕には、君が人の稽古を見なくてもいいほど上手には見えなかったけど」



また意地の悪いことを言ってしまったなという自覚はあった。


きっと真夏は普段、稽古中にのんきにお喋りなんてするタイプではないはずだ。稽古をおろそかにするなんて、僕に言われるまでもなく、真夏自身が絶対に許さないだろう。

それはこのたった二日間でなんとなくわかっていたし、実際に僕に気づくまでは必死に稽古に打ち込んでいた、と思う。


だけど僕がここに来たことに相当驚いて、話しかけられずにはいられなかったんだろう。なんてったって、僕は今朝、真夏に剣道なんかするかとキツく言い放ったばかりだ。

それなのに、自分からこんなーー剣道場になんて足を運ぶなんて、どう考えてもおかしな話だ。
< 31 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop