真夏の青空、さかさまにして
沈黙が降りた刹那、窓から夏の夜風が吹き込んで僕のうなじを撫でた。
僕はその風を心地よく感じたけれど、防具を身にまとった真夏はどうだっただろう。
道場のなかも相当な蒸し暑さだが、メンのなかのあの空間には普通では体感できないような熱がこもっている。そんななかで、真夏は、剣士たちは、ほんの一瞬のそよ風になんて気がついただろうか。
「剣道はじめて、何年になる?」
僕の唐突な質問に真夏はきょとんとしたけれど、すぐに「ああ、えっと……小6の夏からだから……」と考える素振りを見せる。
「4年、かな?」
真夏が首をかしげると、ぱふんと、メンが締まりなく情けない音を鳴らす。防具を身につけているのではなく、防具に着られているみたいだと思った。
「向いてないよ」
「え?」
「君、向いてないからやめたほうがいいよ、剣道。楽しくないでしょ?そこまで下手くそだと」
人間、向いてる、向いてないってある。つまり才能があるかないかだ。
「体が小さいからか知らないけど竹刀や防具に振られて体はフラフラだし、一本一本の当たりが弱すぎる。動きもいちいちトロい。声は頼りないし、そんなんじゃ到底一本にはならない。言い出したらキリがないくらい、まれに見る下手くそだよね」
才能っていうのは生まれもったもので、当然だけど努力でどうこうなるものじゃない。
何をするにしても上手くいったほうが楽しいに決まっているのだから、才能があればあるほど楽しいし、才能がなければつまらない。世の中不平等だけどそれはしかたないことで、努力は才能の前に屈する。