真夏の青空、さかさまにして
だから、才能がないのならほかに向いてるものを見つけるしかないし、向いていないものを努力だなんだって延々と続けるのは時間と労力の無駄だ。そんなもの、やめてしまったほうが賢明だろう。
「4年やってそれって、センスなさすぎじゃない?」
そして、真夏に剣道の才能がまったくないというのは誰の目から見てもあきらかで、僕は親切心から言ってあげたのだ。そう、これは僕の善意だ。
「そうなの……!」
「は?」
「ほかには⁉︎ほかに何が変だった⁉︎」
絶対に泣くか怒るかだと思っていたのに真夏の反応は予想外で、食いつくように体を前のめりにして僕に質問を投げかける。面金越しのその表情は嬉々としていた。
「おとうさ……先生に注意されることそのまんまだよ、もう何回も言われてるのに直せなくて」
僕に喋る暇も与えず、真夏は続ける。
「言ったらキリがないって言うけど、もう全部言っちゃってくれない?……あ、でも全部いっきになんか直せないし稽古中だから、終わってからあずさの部屋に行ってもいいかな?あ、お風呂はちゃんと入っていくから安心して!」
「は、ちょっと」
じゃあ!と一方的に終わらせて列に戻ろうとする細い腕を掴む。
「わっ、なになに?」
振り返った真夏をほとんど睨むようにして見つめると、間を置いて、へらりと力の抜けそうになる笑顔が返ってくる。
「さては寂しいんだなあ?でも、そろそろ戻らないと怒られちゃうからなあ〜」
「……なんでそうなるんだよ」