真夏の青空、さかさまにして

「えっやだもう、冗談だってば!そんな怒らないでよー」

「そうじゃなくて!」



稽古中でよかったと思う。喧騒と熱気にまぎれて、ちょっと大きな声を出したくらいじゃ誰も僕に気づきやしない。



「そうじゃなくて、無駄だって言ってるんだよ。あんたが剣道なんかやったって限界が見えてる。楽しい?そんな下手くそで。楽しくないだろ?勝てもしないのに。だったら潔くやめろたらいいだろ、もっとほかに……」

「楽しいよ?」



遮った真夏の声には迷いがなく、凛としていて、やけに僕の耳に響いた。



「わたし楽しいよ、剣道。下手くそだからつまらないんじゃなくて、たぶん、下手くそだから楽しいんだと思うな」

「は……?下手くそだから楽しい?」

「うん。あとね、剣道って……勝ち負けじゃないんだよ、あずさ」



そう言った真夏がそこではじめて泣きそうな顔を見せた。ごつんっと鈍器で殴られたような衝撃が走る。

今まで何を言ってもへらへらと笑っていたのに、なんで。何が悲しかった?何がそんなに彼女を傷つけた?罪悪感とかそういう後ろめたい気持ちではなく、ただ純粋にわけがわからなかった。彼女の言っていることも、彼女自身のこともまったく理解できない。


やっぱり、僕と真夏は、何もかもが違いすぎるんだ。



「あっ、でもあずさはわたしのことを思って言ってくれたんだよね?」

「……は、」

「それなのにわたしってば、エラそうにごめんね……?心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ、本当にわたし剣道が大好きなんだっ!」
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