真夏の青空、さかさまにして
「……なにしてくれてんの?」
「だってあずさ、わたしの話全く聞かないんだもん」
コテで僕を殴ったらしい真夏があっけらかんとした表情で言う。こんなに恨みのこもった目で見ているのに少しも申し訳なさそうになんかしない。
はあ、とため息が漏れる。ここに来てからため息ばっかりだ。
「そんなに僕に話聞いてほしいなら、自分で強くなれば?僕の知ったことじゃない」
「じゃあ、あずさは幼稚園から上がったばかりの小学生に算数は自分ひとりで勉強しろって言うの⁉︎ 先生がいるでしょ⁉︎」
「小学生……算数……」
「例え話だよ‼︎」
ぷくりと膨らんだ赤い頰が、窮屈なメンの中でぶさいくに崩れる。
「先生は他にいるでしょ」
「そうだけど、それはそれ。これはこれ!あずさじゃないと意味がないの!」
「だからなんで?僕じゃなきゃいけない理由は?」
話を聞いてほしいから、なんてどうせ取ってつけたような理由のくせに。子どもみたいに駄々をこねたらどうにかなると思っているんだろうか。
そう、思っていたのに。
その瞳を前にして子どもみたいになったのは僕のほうだった。
「だって、悲しいよ」
「……え?」
「あの日のあずさがいなかったことになってるの、私は、悲しい」
子どもをあやすみたいに、丁寧に丁寧に言葉が紡がれる。
だからと言ってその言葉の意味がわかるわけでもなく、真夏の言っていることは相変わらず無茶苦茶で、意味不明で。でもそれでいて、僕に何かを見つけ出してほしいみたいな。……謎かけのヒントみたいだと思った。
これじゃあまるで、先生は真夏のほうだ。