真夏の青空、さかさまにして

いつの間にか僕の周りにメンをかぶった生徒たちが集まっていた。僕の腰くらいの背丈の子からがっしりとした体格の背の高い子まで様々だったが、みんな声が高くてしゃべり方も少し幼い。



「ねえせんせー、おにぎり!」



どうやら生徒の目当ては、僕が持ってきたおぼんいっぱいの小さなおにぎりらしい。

そうだ。これを道場まで運んでほしいと十和子さんにたのまれたんだった。すかっり忘れていた。おにぎりを持ったままずっとカリカリしていたなんてなんだか不格好でだいぶ恥ずかしい。


だけど真夏はそんなことはちっとも気にしていない様子で、「先生はおにぎりじゃないよ!」とどこかで聞いたことがあるようなどうでもいい注意を生徒たちにしている。そうじゃない。そこじゃない。



「先生って、なに」



いちばん気になるのはそこだ。しかし真夏がけろりと言う。



「あずさのことでしょ」

「そうじゃなくて」

「山下先生が、あの人は剣道のすごい人なんだぞって教えてくれたから!せんせーなんでしょ?」



食い気味に言ったそう言う生徒たちの瞳は、きらきらと純粋に輝いている。

おまえか、と真夏をにらむと真夏は慌ててぶんぶんと顔を振る。ちがうらしい。それじゃあ犯人は……ひとりしかいない。振り返るとにこにことなんでもないように忠さんが笑っていた。悪気はない、のかはわからない。ただ少し気を付けようと思った。忠さんは真夏よりよっぽど厄介かもしれない。
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