真夏の青空、さかさまにして
「……ほら、練習に戻りなよ。おにぎりよりそっちが先でしょ」
ためらいながらもできるだけ優しくそう言うと、「えー!」とブーイングが起こった。練習が中断しているっていうのに忠さんはまだなにも言わない。ただ微笑ましそうにこちらを見ているだけだ。だけどだからと言って、何か言えよ!なんて言えるわけがない。
「真夏ちゃんだけ教えてもらってるの?」
「この人にも教えないよ」
「うそだあ、だって練習中なのにずっと話してたもん!真夏ちゃんだけずるーい!」
ほら見ろ、だから言ったんだ。早く練習に戻れと。
もう一度真夏の方を向くと、真夏は文句を言われることを察知したのか僕と目が合う前にさっと顔をそらした。
「ねえせんせー!お願い!」
「ちょっとでいいから!」
「コテが上手く打てないんだけど、どうしたらいい?」
「ええ……」
子どもへの対応ってどういうふうにすればいいんだろう。さすがに真夏にするみたいにはできないし、かといってこれ以上やいやい言われるのもごめんだ。
頭を悩ませる僕を見て真夏がにまにまと楽しそうに笑っている。ああもう本当に面倒くさい……!
「わかったよ!とりあえずそこのチビ、ドウだっけ?打ってみて」
「チビー⁉おれクラスではいちばん大きいのに!」
「いいから早くしないとやんないよ」
「えっ、やるやる!やるよ!」
真夏は意外だったのだろう。しばらくぽかんと口を開けて、生徒たちに剣道を教える僕を見ていた。