真夏の青空、さかさまにして
「えー⁉ちょっと待ってよ、そんなのずるい‼」
真夏がはっとしたようにして大声で叫んだ。真夏の声が道場いっぱいに響く。
「わたしにはいやの一点張りだったのに!」
「だってしかたないでしょ」
こうするのがいちばん手っ取り早い気がしたんだから。それに、ちびっ子たちに少しアドバイスをするくらいなら僕もそこまで苦じゃない。
だけど真夏は納得がいかないみたいだった。
「しかたなくないよ!」
あれだけ何度も僕に頼んでは冷たくあしらわれていたんだから当たり前かもしれない。ぶんぶんと左右に首を振って、ずるいずるいと子どものように駄々をこねている。
だけどすぐにひらめいたようにして、ぱあっと顔を明るくさせた。……嫌な予感がする。
「そうだ、じゃあわたしも混ぜてっ」
言うと思った。僕は頭を抱えて、はあ、と大きくため息をつく。
生徒たちに「続けておいて」と言って、真夏をひきずるようにしてそこを離れた。
「さっきから思ってたけど小学生に混ざるの嫌じゃないの……」
「嫌じゃない!全然!」
僕なら絶対に嫌だけど、このとおり真夏はまったく嫌な顔をせず普通に小学生のなかに混ざって練習をしている。たまに先生役をしながらも基本は他の生徒たちと何ら変わらない。今日はたまたま小学生の部だっただけで中高生の部もあるみたいだけど。
「だから教えてよ。ね、お願い!」
真夏が拝むように顔の前で手を合わせて、ぎゅうっとかたく目をつむる。まるで神社で神さまにお願い事をするみたいに必死だ。
はたして、そこまでする価値が今の僕にあるだろうか。