真夏の青空、さかさまにして
「わたしはあずさに剣道を教えてほしいよ」
ふわりと真夏が笑って、僕は泣いてしまいそうになった。慌てて下を向く。真夏にこんな顔を見られたくはなかった。
救われた、なんて大それたことは言わない。ただ、今度真夏に剣道を教えてと頭を下げられても、あんな嫌な気持ちにはもうならないと思った。それだけだった。
「……メンはかぶらかない」
ぽつりとこぼした僕の言葉に、真夏が「え、」と驚いた顔をする。
「アドバイスをするだけだし、時間は昼間の道場が空いてる時間、一、二時間だけ。それでもいいなら」
「お、教えてくれるの⁉︎」
「嫌ならいいよ」
「嫌なわけないじゃん‼︎」
防具をつけたままなのにぴょんぴょんとそこら中を飛び跳ねる真夏を見て、生徒たちがわらわらと集まってきた。
「真夏ちゃんだけ教えてもらえるの?ずるーい!」
「へへーん、あんたたちはさっき教えてもらってたでしょ」
「すぐ真夏ちゃんに連れてかれたじゃん!」
「せんせー!真夏ちゃんが大人げないー!」
こんなにゆるくていいのだろうか。山下剣道場はみんなが仲良しで、強くなることよりも楽しむことに重きを置いているみたいだった。
僕が小学生の頃行っていた地域のクラブチームは全国大会常連で、体育館に入ってから出るまではみんなずっとピリピリしていたし、やる気がない者はすぐに帰らされていた。楽しく、なんて言葉はなかった気がする。
だからだろうか、僕はこの道場の雰囲気には馴染めない。でも。
「……いいな」