真夏の青空、さかさまにして
夏色のラムネ
「にじゅうはち……にじゅうきゅ、っ、さんじゅ……っ!」
床に大粒の汗がぼたぼたと落ちる。言い終わると同時に、腕立て伏せをしていた真夏が体ごと勢いよく崩れ落ちた。
「はい、残り二セットね。そのあと体幹メニューするから休憩は短めで」
「あ、あずさ……」
「なに?」
「そろそろ剣道しない⁉︎」
真夏がごろんと大の字に寝返って、乱れた呼吸のなか半分叫ぶように言った。
真夏とふたりきりの練習がはじまって三日目。とは言っても竹刀には指一本触れておらず、筋トレや体幹メニューばかりさせている。
なぜかというと、道場での普段の練習を見ていて思ったのだが、真夏は技術云々の前に体ができていない。竹刀を振りかぶるたびに体の軸がふらふらふらふら。振り落とすのも遅い上に力がない。これじゃあ、好きに打ち込んでくださいと言っているようなものだ。
こんな状態でがむしゃらに竹刀を振るのは馬鹿だし、変なクセがつく前に体をつくり直した方がいい。もうついてるクセは……あとでどうにか矯正しよう。
しかし真夏には、僕があまり真剣に考えていると思われたら嫌だったのでこれを説明していないのだ。だからついに我慢ならなくなったのだろう。
真夏はこんな状態で竹刀を振りたくて振りたくてしかたがない大馬鹿らしい。
「下手くそのままでいいなら、竹刀でもなんでも振りに行けば」
うっと真夏が言葉に詰まる。その肩は未だに上下に揺れていて、ほれみろ、と思う。ちょっと筋トレしただけでこのザマだ。今まで竹刀ばかり振って体をつくることをおろそかにしていた証拠だ。