真夏の青空、さかさまにして
「やるよ、やる!でもさ、筋トレなら一人でもできるんだからこの時間は……」
真夏が上半身だけを勢いよく起こして、懇願するように僕を見上げる。
「腕立て最後のほうお尻上がってきてたけど気づいてた?」
「うっ……気づいてませんでした」
「一人でできる?」
「できないです……」
恨めしそうな顔で真夏は返事をしたけれど、筋トレの時間を別でとらない理由はそれだけじゃない。
ここ数日、同じ屋根の下で過ごしていて気づいたのだが、夏休みだというのに真夏は遊びに行ったりすることはなくほとんど毎日朝から晩まで一日中剣道をしているのだ。
高校でも剣道部に入っているらしく、朝は部活。昼は以前まで休憩も兼ねて防具や竹刀の手入れをしたりしていたが、今は僕との自主練。夜は道場での練習。
そんな真夏にさらに筋トレの時間なんてとらせたら、この薄っぺらく小さな体はすぐに壊れてしまいそうだ。
そもそも練習の量よりも質を高めるべきだというのは、真夏自身を見れば一目瞭然だ。人それぞれに合った練習というものがある。
「ねえ、このメニュー全部終わったらちょっとくらい剣道教えてくれる?」
「教えない。休憩しろ」
ツンと突き放すように言えば、真夏はすねたように口を尖らせた。
「ねえ、剣道教えるの、やっぱり嫌になっちゃったとかじゃないよね」
「……あんまりしつこいと夏休み中筋トレさせるよ」
「ひっ、うそうそ!ごめんなさーいっ」