真夏の青空、さかさまにして
慌てて真夏が腕立て伏せを再開する。鈴のような声をめいっぱい張り上げて、いっち、にぃーとリズムよく肘を曲げると、それに合わせてぽたぽたと汗が落ちる。
そんな真夏を見て、半分図星だったなんて言えるはずもなかった。
別に嫌になったというわけではない。ただ、怖いのだ。メンはつけないとは言ったが、ふたりきりの練習ということはどうしても僕が竹刀を持って真夏の相手をしなければならない。竹刀くらいなら、とはじめは思っていたが、いざ握ろうとすると手が震えるのだ。
なんせ剣道を避け続けてもうすぐ一年になる。もちろん竹刀だって一年触れていない。
こんな状態でよく剣道を教えることを引き受けたな、と自分で自分に呆れてしまう。あのときはきっとどうかしていたんだ。だからといって、一度引き受けてしまったのだから、本当にずっと筋トレや体幹トレーニングをしているわけにもいかない。さあ、どうしたものか……。
後悔の念に駆られているうちに、やっと真夏が腕立て伏せを一セット終えた。腕立て伏せはあと一セット残っている。そのあとは体幹トレーニングだ。
今日もなんとか竹刀は握らないでよさそうだ。ほっとしながらも、そんな自分が情けなくて恥ずかしかった。
「真夏ちゃん、あずさくん。おつかいを頼んでもいいかしら」
そう言って、にこやかに微笑む十和子さんが剣道場にやってきたのは、ちょうど真夏が体幹トレーニングのメニューをすべて終えた頃だった。