真夏の青空、さかさまにして
こういう対応には慣れていない。これなら陰口を叩かれたり冷ややかな視線を向けられるほうがよっぽどやりやすいと思った。
「じゃあ、行こっか!」
真夏が額の汗を拭う。
「……その汗だくのまま行くわけ?」
「あ。ほんとだ、着替えて……」
「どうせなら走ってもう少し汗を流せば?体力づくりにもなるし」
ポーカーフェイスを気取りながらも内心ほくそ笑む。
走っていくなんて冗談だった。いまさっき、みっちりと一時間の筋トレや体幹トレーニングを終えたばかりだったから、僕は真夏の「ゲッ……」という反応を期待していたのだ。
ところが、真夏はきょとんとしてから、ぱあっと花がほころぶように明るく笑った。
「いいね、それ!ちょうど走りたい気分だったし」
「……はあ⁉︎今から⁉︎」
「えっうん。ていうか、あずさが言い出したんじゃん」
そういえば真夏はこういう人間だった。僕の思い通りに動いてくれるようなやつではない。
「さ、早く行こ!」
それにしたって、あれだけのメニューのあとに走りたい気分になるって……体力だけは無駄にあるみたいだ。そういえばメニュー中も、「体が痛い」とは言っても「疲れた」とは一切言わなかった。
でもよくよく考えてみれば、いつも朝から晩までぶっ通しで動いているわけだから、真夏に体力があるのは当然のことなのかもしれない。