真夏の青空、さかさまにして
これなら明日からはもっとキツいメニューにしても大丈夫かもしれない、なんて真夏をいじめるすべを考えながら十和子さんが用意してくれた自転車に跨ろうとする。
そうすると、真夏に「あずさも体力つけなきゃね」と自転車から引きずり降ろされ、結局僕がいじめられているような図になったのだった。
不本意ながら走り出して数分。たしか今日の最高気温は三十度を超えると朝の天気予報で言っていたが、絶対に今がその時間帯だと思う。たった数分なのにもう汗が止まらない。
「ねえ、さっきスーパー通り過ぎたような気がするんだけど」
ダラダラと遠慮なく流れる汗を拭いながら真夏に言う。すると真夏はにかっと爽やかに笑った。
「こんなすぐに走り終わったら意味ないじゃん!川の向こうのお肉屋さんまで行こう。そっちのほうがおいしいし」
「冗談でしょ……」
真夏は体力があるだけでなく、意外と足も速かった。僕のとなりをまるでスキップするみたいに楽しそうに走っている。
真夏のことを体力だけが取り柄の運動音痴だと勝手に思っていたけれど、どうやらそれは間違いだったみたいだ。剣道よりも陸上競技のほうがずっと向いていそうだ、と言ったら真夏はどんな反応をするだろうか。
それに比べ、走ることは得意でも好きでもなく、もうずっと体育の授業でくらいしか運動をしていない僕は、真夏が言う〝川の向こう〟の川が未だにまったく見えないことに頭が痛くなった。