真夏の青空、さかさまにして
「まさかここ数日間の仕返しとかじゃないよね」
「はあ?仕返し?」
「筋トレとか体幹トレーニングの」
「え、なにがそれの仕返し?」
走らせてることだよ、とは言わなかったがジト目でそれを訴える。だけどそんな僕を見つめ返す真夏は、小型犬のようにまん丸く黒目がちな目をパチパチさせて頭に疑問符を浮かべている。
その時、かなりのスピードで走る車が僕らのうしろからやってくることに気がついた。僕から一歩遅れて真夏も気づく。狭い道だ。僕は思わず「危ない」と車道側を走っていた真夏の腕を引いた。真夏が僕のほうによろける。
「わ、危なかった。ありがとう、あずさ」
車がスピードを緩めないまま僕らのとなりを通り過ぎて行って、真夏が上目遣いに言う。
「別に。それより危なっかしいから場所交代して」
「え、いいよー。もう気をつけるし」
「いや邪魔だから」
「またまたそんなこと言っちゃって」
「いいから、早く」
もう一度ぐいっと腕を引いて、今度は無理やり場所を交代させる。最初からこうしていればよかった。まるで言うことを聞かない子犬の散歩をしているみたいな気分だ。
「子犬……」
「え?」
一歩、また一歩と足を進めるたびに真夏の癖毛がぴょんぴょんと跳ねる。
「……トイプードル」
「へ?」
「く、ふはっ」
不覚にも思いきり噴き出してしまった僕を見て、真夏が「え?え⁉︎」と困惑している。だけどしかたない。あんまりにも似ているから、もうそれにしか見えなくなってきた。