真夏の青空、さかさまにして
「なに、どうしたの⁉︎」
「別に」
「うそー!気になるじゃんかーっ‼︎」
キャンキャン吠えてる、と思いながらも僕はなんとか笑いをおさめた。真夏がじとりと睨んでいたけれど、トイプードルに睨まれって全然怖くない。
「それよりもさ」と話を切り替えると、「それよりじゃないよー」と真夏が怒ったようにしてみせた。だけどやっぱり怖くなくて、そのまま言葉を続ける。
「さっきはちょっと筋トレしただけで息が上がってたのに、今はずいぶん余裕そうだね」
「ええ⁉︎あれがちょっと⁉︎ありえない!こうやってゆるく走ってるほうが楽しいしラクだよ!」
これがゆるく、なのか。女子にしてはだいぶ早いペースだと思うけれど、そんなことないのだろうか。
「明日からもっとキツくても大丈夫だなと思ってたんだけど」
「えっダメ!まだダメだから!」
まだ、と言うところが真夏らしい。そのうちキツくしてもいいみたいだ。
だけど僕が素直にいいよと答えるはずもなく、「どうしようかな」と意地悪く言ってやった。すると真夏が「ええっ」と嫌そうな顔をする。僕と違ってなかなか素直な反応だ。
大丈夫。それこそ口先だけの冗談だ。無理に真夏の体に負荷をかけたりするようなことは絶対にしない。……真夏が僕のせいで怪我なんてしないように。