真夏の青空、さかさまにして

「なに、どうしたの⁉︎」

「別に」

「うそー!気になるじゃんかーっ‼︎」



キャンキャン吠えてる、と思いながらも僕はなんとか笑いをおさめた。真夏がじとりと睨んでいたけれど、トイプードルに睨まれって全然怖くない。


「それよりもさ」と話を切り替えると、「それよりじゃないよー」と真夏が怒ったようにしてみせた。だけどやっぱり怖くなくて、そのまま言葉を続ける。



「さっきはちょっと筋トレしただけで息が上がってたのに、今はずいぶん余裕そうだね」

「ええ⁉︎あれがちょっと⁉︎ありえない!こうやってゆるく走ってるほうが楽しいしラクだよ!」



これがゆるく、なのか。女子にしてはだいぶ早いペースだと思うけれど、そんなことないのだろうか。



「明日からもっとキツくても大丈夫だなと思ってたんだけど」

「えっダメ!まだダメだから!」



まだ、と言うところが真夏らしい。そのうちキツくしてもいいみたいだ。

だけど僕が素直にいいよと答えるはずもなく、「どうしようかな」と意地悪く言ってやった。すると真夏が「ええっ」と嫌そうな顔をする。僕と違ってなかなか素直な反応だ。


大丈夫。それこそ口先だけの冗談だ。無理に真夏の体に負荷をかけたりするようなことは絶対にしない。……真夏が僕のせいで怪我なんてしないように。
< 54 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop