真夏の青空、さかさまにして
それからはたまに言い合いをしたりしながらもなんとか川沿いまで辿り着き、河川敷を走った。太陽の光を浴びて水面がちらちらと反射している。
河川敷には、この炎天下のなか犬の散歩をする人やランニングやジョギング、バドミントンをしている人もいて、僕はその人たちの気がまったく知れなかった。
……なんて、つい数十分前の僕なら確実にそう思っていたはずなのに、悔しいことに今の僕はこの頬をかすめる風が、流れる汗が、気持ちいいと思っている。本当に、悔しいことに。
「っはあ、着い、たあー…… ‼︎」
「……っは、はあっ……これ絶対、こんな真夏日に走ってくる距離じゃないから……」
肉屋に着いた時には二人とも肩で呼吸をしていた。だけど真夏は少し休憩するとすぐに回復して、これでもかと言うほどの肉を買った。
真夏は「これで足りるかどうか不安だな〜」と頭を悩ませていたけれど、それは冗談とかじゃなくて本当にそう言ってるんだろうか。家族の人数が違うにしたって、僕の家では見たことのないような肉の量だ。
「おばちゃーん、これやっぱりもう少し増やして」
「相変わらず真夏ちゃん家はよく食べるわねえ」
苦笑しているおばさんとのやり取りを見ていると、どうやらここは山下家行きつけの店みたいだ。テンポよく交わされる会話を呼吸を整えながらなんとなく聞いていると、おばさんがふいに僕のほうに目をやってにんまりと笑った。
「真夏ちゃんもやるねえ」
「は⁉︎」
僕と真夏の声が揃う。おばさんは逆に驚いたようにして「彼氏じゃないの?」と聞いた。