真夏の青空、さかさまにして
幕開く居候生活
夏が嫌いだ。
海だの祭りだの高校野球だの、全部一年通して楽しめるはずのものなのに、世間は春でも秋でも冬でもなく、特別夏に騒ぎたがる。
夏だからなんだって言うんだろう。夏という季節にふよふよ浮かされた人間を見かける度に腹が立つし、そういう輩はきまって熱苦しくて鬱陶しい。ただでさえ夏は暑いというのに人間まで熱くなる必要ないだろ。
だから、夏も、夏が好きだと言う人間も大嫌いだ。
「あっつ……」
じりじりと照りつける太陽、雲ひとつない青空。そこら中から聞こえる蝉の声は、まるでこの世に生まれてきてことを後悔して泣き叫んでいるみたいだ。
そりゃそうだよな、七年も土の中にいてやっと出てこれたと思ったらこんな猛暑だ。泣き叫びたくもなる。
本格的に夏が始まり、うちの高校も今日から夏休みに入った。
歩いているだけで汗が流れてくる不便なこの季節はいつだって憂鬱で仕方なく、僕は毎年、それはそれは楽しそうに教室を出て行くクラスメイトたちの気が知れないわけだけど。……今年の夏はなおさらそうかもしれない。
山下、山下と心の中で、憂鬱の原因であるそれをぶつくさと唱えながらあたりを見回すけれど、目当てのものは全く見当たらない。
この辺りのはずなんだけど。
大きな表札が出ているから近くまで来たらすぐにわかるだろうと父さんに言われたが、表札の大きさなんかたかが知れている。しかも山下なんて、珍しくもなんともない名字だ。見つけたところで、それが本当に僕の探している〝山下〟なのか不安に思うことは間違いない。